興海の町から南西30kmほどの所にあるチベット仏教の寺院セルゾンゴンパへ行きます。
そこへ行く定期的なバスなどはなく、乗合のジープで行かなくてはなりません。
しかもそれがどこから何時ごろ出発するのかもはっきりしません。
宿のおっちゃんに尋ねても、自分で車をチャーターするしかないんじゃないのというつれない返事。
そのため朝7時半ごろと少し早めに宿を出ます。
すると宿のすぐ前に、赤い布を身に纏ったお坊さんがいるじゃありませんか。
おお、もしかしてこの人はセルゾンゴンパの人ではないのか。
喜び勇んで声を掛けてみます。
しかし、残念ながらセルゾンゴンパの人ではなく、乗合ジープの乗り場も知らないようです。
あ〜あ、と思いましたが、このおっちゃん、すごく親切な人でした。
周囲の人に尋ねたりして、必死に探してくれます。
嬉しいですねぇ。
イスラム圏の国では道を尋ねると、わざわざ連れて行ってくれたりと、かなり親切丁寧に道を教えてくれることが多かったのですが、中国ではあっちあっちと指を指されてお終いってことも多かったですから。
いや〜やっぱりチベット人っていいじゃありませんか。
そうして見つかった場所にはまだジープがいなかったので、いったん朝食を食べに行きます。
30分ほどして戻ると、そこにジープが止まっていました。
これか?と思って運転手に声を掛けると、そうだ、と言うじゃありませんか。
よし、これで行けるぞ。
料金は乗客が6人集まって、一人15元だと言います。
今は僕を含めて、まだ二人しか集まっていません。
すると運転手のおっちゃんは、二人でも一人50元払えばすぐにでも出発すると言います。
50元は高い。
でも、帰りのジープのことを考えるとなるべく早く向こうに着いておきたいという気持ちも強い。
もうちょっと安くならないか。
値切ってみますが、運転手は50だと言い張ります。
やっぱりこっちに弱みがある時はうまくいかないものです。
こっちに余裕がある時はじゃあ乗らないとか言って揺さぶりをかけたりできるのですが。
結局、50元で行くことにしました。
しかし、それだけ払った価値は十分ある道中の景色でした。
グランドキャニオンのような切り立った崖を下って上って、さらに高度を上げて行きます。
昨日よりさらに日差しは強くなり、空はさらに青く、緑の草はさらにその色を濃くします。
1時間ほどで着いたセルゾンゴンパもまたすばらしいものでした。
背後には象が水を飲む姿にたとえられる岩峰がそびえ、周りにはここもまた青々とした草原が広がります。
寺院が建てるべくして建てられた、人間に畏怖の気持ちを抱かせる神秘的な場所と言って良い抜群のロケーションです。
そして、ここに住むお坊さんもみんなフレンドリーないい人でした。
快くお寺の中に入れてくれましたし、写真も気軽に撮らせてくれます。
でも、一度、こっちが写真を撮ると、お坊さんたちもけっこう新しい型のデジカメを持ち出してきて僕の写真を撮ったのには少し驚かされました。
こんな田舎のお坊さんでも持っているもんなんですねぇ。
お坊さん以外のチベット人は一見無愛想にも見えますが、話しかけてみるとけっこう笑顔で答えてくれたりします。
シャイなんですね。
帰り際には、ある家族にご飯までご馳走になってしまいました。
そんな楽しいセルゾンゴンパだったのですが、やはり面倒なことも起こってしまいました。
ここはお寺の他には、小さな食堂や宿が数軒あるだけの小さな村なのですが、チベット人を監視するためなのか、しっかりと警察の派出所もあります。
ここに着いた時に派出所のある広場にパトカーが止まっているのが見えたので、その前を通らないように迂回してお寺に行ったのですが、何ヶ所目かのお寺を見てそこにいる人たちにニ〜ハオとか言って挨拶していると、突然、黒い服を着たおっちゃんい声をかけられたのです。
そのおっちゃんはえらく興奮した様子で早口でなにやらまくし立て、僕を派出所の方に連れていこうとします。
あっちゃ〜、なんかややこしそうな人につかまっちゃたなぁと後悔します。
しかし、派出所には鍵が閉まっており誰もいなかったのです。
パトカーも見当たらなくなっており、どっかへ出かけたようです。
するとそのおっちゃんは、携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけます。
どうやら警察官と話をしているようです。
こいつ余計なことをしやがって。
そして、しばらくここで待てと言われたのですが、そこで何もせず待つのも馬鹿らしいので、何を言っているのか分かりませ〜ん、といった感じでそのおっちゃんを無視して、観光を続けます。
そして、一通り見学を追えそろそろ帰ろうかとなって、広場に戻るとパトカーの姿が目に入ったので、一応派出所に顔を出してみます。
そこには4人の警察官がいて、ちょうど昼飯を食べていました。
僕を見るとああっといった顔をして、イスに座るように言います。
そして、食べていた肉やパンをくれます。
それから、パスポートを見たり、ここに何をしにきたかとか訊いてきたりします。
それでも前回警察署に連れて行かれた時とは違い、のんびりとした雰囲気でした。
でも、一通り会話が終わると、今は外国人はチベット仏教のお寺を訪ねてはいけないからすぐに町へ帰れと言います。
どうやらオリンピック期間だからのようです。
本当にいやになってきます。
そして、一人の警察官が僕に付き添い、町へ行くジープに乗せようとしますが、なかなか見つかりません。
村の人に尋ねても、今日はもう出ないんじゃないか、明日の朝まで待たなければならないよ、みたいなことを言います。
困ったなぁと思いますが、警察官はもっと困ったようでした。
どうしても僕を町に返したいらしく、僕に代わって一生懸命車を探してくれます。
そして、時間はかかりましたが、なんとか見つけ出してきてくれました。
しかも、そのジープは乗客が3人しかいなかったのにもかかわらず、一人15元と値段交渉までやってくれました。
ありがたいことです。
しかし、町に戻りジープを降りしばらくぶらぶら歩くと、セルゾンゴンパの警察官から連絡がいっていたのか、今度は町の警察官に捕まり警察署まで連れていかれます。
そして、またパスポートを見せたり、質問されたりします。
勘弁して欲しいなぁと思っていると、今度はパトカーに乗せられます。
いや〜またまたパトカーです。
まさか2回目があるとは思ってもなかったですね。
連れていかれた場所は、昨日宿泊を断られたちょっと値段が高そうなホテル。
そして、ここに泊まれと言います。
昨日は、警察の指導によって外国人は泊められないって断られたばっかりなのに‥‥。
しかし、ここに泊まるのは高いからいやだ、それにもうすでに宿にチェックインしているということを伝えると、今度は今泊まっている宿に連れていかれました。
僕を泊めていることで宿の人が怒られるのではないかと心配しましたが、そんなこともなく警察官と宿の人も普通に話をしています。
そして、何故か引き続きここに泊まることを許してくれました。
どうなることかと思いましたが、とりあえず、良かった良かったです。
いろいろ連れ回されたりしましたが、警察官はみな親切でフレンドリーな感じでした。
悪い人たちじゃないんでしょうが、上の方から外国人を入れるなと厳しく言われているのでしょうねぇ。
なんか困ったことがあったら110番(中国でも110なのです。)してくれと親切にも言ってきてくれたりもします。
最後の別れ際に、ちょっと写真を撮ってもいいかと訊くと、笑顔で手を振ってポーズをとってくれたのでした。
しかし、ここはチベット自治区でもないのにもかかわらず、このチェックの厳しさ。
ほとほといやになります。
ここよりもうちょっと山奥の町にも行こうかとも考えていましたが、もう止めにしました。
あぁ、疲れますね。
ほんとに、ほんとに、オリンピックのばっきゃろ〜!!!