ユカタン半島には、セノーテと呼ばれる地底湖が数多く点在しています。
この辺りの土地は石灰質だということはこの前にも述べましたが、その地中に染み込んだ水が地下水脈となって流れ、その地上部分が崩れてできた地下洞窟のこと。
メリダの周辺にも日帰りで行ける所があると知り、同じ宿に泊まっている日本人の女の子Kちゃんとともに行ってみることに。
まずは、近郊にある拠点となる村までコレクティーボで向かいます。
そこから、自転車タクシーに乗り、4、5kmの道のりを行くと、そこにトロッコ乗り場があります。
そのトロッコに乗って、3つのセノーテを訪ねるのです。
そのトロッコ、4人乗りの馬が引く、とても小さく、ぼろく、素朴で微笑ましい乗り物です。
一台150ペソで、セノーテに入るための入場料は必要無いという、なかなか嬉しい料金設定となっています。
カタコト、カタコトと揺られながら進むこと15分ほど。
最初のセノーテに到着しました。
表示に沿って進み、たどり着いた地面に開いた岩の裂け目から覗くと、下に青い池があるのが見えるじゃありませんか。
青く透き通っていて、とても綺麗。
慌ててそこに設置されている階段を下ります。
そして、服を脱ぎ捨て、そこに飛び込みます。(もちろん水着を着てですよ。)
すごく気持ちが良い。
その岩の裂け目から、日の光が差し込むのですが、それが水に当たるとなんとも美しい光のラインを水の中に見ることができます。
ほんと素晴らしいです。
しかし、ちょうど同じ時に、アメリカ人のツアーの団体が2、30名ほど来ていてみんな騒ぐ騒ぐ。
そんな神秘的な雰囲気を楽しんでいる場合じゃなくなります。
その池には、3mぐらいの高さの跳び込める場所があるのですが、みんな大騒ぎをしてジャンプしていきます。
僕も、負けずに後ろ向きに回転しながら跳んだりします。
まぁ、これはこれで楽しいですけど。
そんな大騒ぎをするアメリカ人を置いて、僕らは先に二つ目のセノーテに向かいます。
そして、ここは一つ目のセノーテでの僕の喜びはいったいなんだったんだと思うくらい、さらに大きく、美しく、素晴らしい。
水も先ほどよりもっと透き通っており、暗がりの中、差し込む日の光は幻想的であります。
そして、そこには僕ら以外まだ誰もいないので、静寂に支配されています。
ここのセノーテも泳いで良いのですが、そこで泳ぐのためらってしまうほど、なにか神秘的で恐ろしいものを感じてしまいます。
ここで、一人じゃ泳ぎたくないなぁ。
先ほどまで、あんだけうるさいなと思っていたアメリカ人が早く来てくれないかなとも思ってしまいます。
はい、どーせ、僕は、臆病者ですよ。
それから、しばらくするとアメリカ人たちもやって来ました。
そして、また歓声をあげながら次々にセノーテに跳び込んでいきます。
僕もやっと入ります。
水もひんやりととても気持ちが良い。
アメリカ人たちは、今度は4、5mほどの高さの場所から飛び込んでいます。
ふと、上を見上げると、セノーテの真上にここに入ってきた岩の裂け目が見えます。
水面からそこまでは、ざっと見たところ13、4mくらいでしょうか。
ここのセノーテの水深はかなり深いので、もしかしたらそこから飛び下りることもできるかもしれないな、なんて考えてしまいます。
もちろん、そんな怖いことはしたくないと、すぐにその考えを打ち消します。
でも、もし誰かが飛び下りたら、僕もやらなきゃ駄目だろうなぁ。
そんなやつぁいないか。
と思ったら、一人のアメリカ人の兄ちゃん、飛び下りました。
おい、おい、おい、マジかい!?
周りは大喝采。
こんなことをされたら日本男児たる僕も黙ってられない。
さっそく階段を入り口まで駆け上がりました。
そして、下を見下ろすと‥‥。
たけー!!
下で見ているアメリカ人たちは、跳べ跳べと僕にさかんに声援を送ってきます。
よし、いっちょ飛び下りたるかと気合をいれますが‥。
やっぱり、無理でしょ、この高さは。
はいはい、どうせチキンハートの臆病者ですよ、僕は。
そして、そのまますごすごと階段で降りたのでした。
でも、やっぱりその高さは他のアメリカ人たちにも怖いようで、最初に飛び込んだ人を含めて二人しかやりませんでした。
これは、しょうがないよ、怪我でもしたら大変だもの、と自分で自分を慰めますが、ここに最初来た時の喜びはいつの間にか忘れ、跳べなかったことを一生後悔するかもしれないななんて暗い気持ちでセノーテを後にします。
そう、後にしようと思った時に、突然Kちゃんが、「私、飛び込めるかも。」なんて言い出したのです。
絶対無理だって、めっちゃ怖いよと僕は言いましたが、Kちゃんは一回上から見てみると僕に言い残し階段を駆け上がっていきました。
そして、上から顔を覗かせます。
びびってるだろうなと思って見ていると、周りのアメリカ人たちは女の子がそこに上ったもんだから、興味津々に見ています。
そして、みんなで跳べ!跳べ!と歓声を上げ始めました。
そんなことを言っても、怖いんだって。
そうだよね、Kちゃん。
と、思ったら。
あっさり、飛び下りました。
ぴょん、ひゅーん、ぼちゃん、と。
周りは、大盛り上がり。
すげー、ほんとうに飛び下りやがった。
そうそう、これが日本人の心意気ってもんじゃい。
よく、見たかヤンキーども。
日本人をなめてもらっちゃ困るよ。
そうそう、日本人‥‥。
の女を‥‥。
周りのアメリカ人たちは、僕を見てすげーなぁあの女の子みたいな表情をしています。
そして、その瞳の奥に僕はある言葉を読み取りました。
「女の子が跳んで‥‥、そして、君は?」
はいはい、僕も行きますよ。
行けばいいんですよね。
階段を駆け上がり、岩の裂け目の淵に再度、立ちます。
下を見る。
やっぱりこえぇぇ。
でも、やらなけきゃ。
えい!!
落ちる、落ちる、落ちる、長い、長い、長い。
ボシャーン!!
よっしゃー、どうだ〜アメリカ人ども。
これが、日本男児ってもんじゃ〜い!!
誰が、チキンハートなんじゃい!!
女の子の後だけど‥‥。