ある国を旅行している時、とりたてて大きな理由はないのだが無性に行きたくなる場所があります。
マレーシア、ボルネオ島の場合はピナクルでした。
ピナクルとは、するどく切り立った石灰岩が林立するなんとも不思議な景色でアピ山に登ることによって見ることができます。
ガイドブックに乗っている写真を見たとき、おおなんかいいなと思いました。
調べてみるとそこへ到る道は険しく登ることは大変らしいことが分かり、ますます冒険心もかきたてられこれは是非とも行かんとならんと決意しました。
そして、いよいよピナクル観光の基点となる町、ミリまでやってきました。
しかし、これからが大変なのだ。
その理由は、とにかく金がかかるということ。
まずピナクルのあるムル国立公園まで飛行機で行かなければならない。
往復で約240RM(約7500円)。
そこから川をボートで2時間ほど移動するのだが、その料金が往復250RM(約8000円)。
そして、ガイドが必ず必要なのでその料金400RM(約13000円)なり。
それに飯代宿泊費などもろもろの費用がかかってくる。
とてもじゃないが一人で払える金額ではない。
安くあげるにはボート代ガイド料をシェアする人を見つけるしかない。
しかし、見つかるか見つからないかは運しだいってやつだ。
ガイドブックによると、一人で登ろうとする人にはツアーの参加を考えるのも安くあげる良い方法だと書いてあったので、旅行代理店も何軒かあたってみる。
一番安いところで飛行機代等全て込みで約13500RM(約45000円)。
これこそ払える金額ではない。
もう行くのは辞めちまおうかとまで思ったが、ムル国立公園には歩いて気軽に訪れることができる世界最大級の大きさのを含めいくつかの洞窟があるので、最悪、同行者が見つからなければ洞窟だけを見て帰ろうという極めて妥協的な案を採用しとりあえず片道の飛行機のチケットと一泊目の宿の予約だけをして行くことに決定。
小さな小さなプロペラ機の30分ほどのフライトでムルに到着。
さっそく公園事務所に行きいろいろ訊ねてみる。
どうやらやはり自分で同行者を見つけるしかないようだ。
同行者募集の張り紙が貼ってあるボードをチェックするも見つからず、同じ飛行機に乗っていたカナダ人の男に訊くが料金が高いとのことであまり乗り気ではない。
やはり諦めるしかないのか。
そう思いつつ、その日はいくつかの洞窟見学をしました。
しかし、夕方、洞窟から数万匹のコウモリが餌を求め大空に黒い帯となって外に飛び出して行く様を眺めている時に、救いの女神が登場したのです!
そこにクピトからベラガまで同じボートに乗っていたイギリス人の女の子が現れたのです。
なんと彼女もピナクルに行く同行者を探しているとのこと。
これでとりあえず2名だ。
この女の子そこそこ魅力的なのですが、その女の子の話を聞いたカナダ人の男も先ほどとはうって変わり急に行く気満々に。
ああ男って単純な生き物ですね。
しかし、とにかくこれでめでたく3人集まったので行くことが決定。
翌々日、午前中洞窟の中をロープでよじ登ったりするアドベンチャーケービングってやつをして、午後ガイドとともに食料を買い込みいざボートで出発。
2時間ほどでボートを降りそこからは3時間ほどのトレッキング。
明日ピナクルを見ることができると考えただけで笑みがこぼれ歩くことも苦になりません。
山小屋に到着しその晩はガイドが作ってくれたチキンカレーをがつがつと食いエネルギーを蓄える。
しっかりと体全体をストレッチしてほぐす。
準備万端いよいよ明日だ!
朝6時に起床し朝食を食べ、7時に宿を出発。
いきなり険しい道が続くがゆっくりゆっくり小さな歩幅で一歩一歩踏みしめて登っていく。
果たしてこれからどのような道があらわれ、どのような風景を見ることができるのか。
そう期待に胸を膨らませ2時間ほど歩いたときだった。
ザーーーーーーー
突然、大粒の雨が空から降り出す。
雨とはついてない。
しかし、登り続けるのだ。
そう決意を新たにもうひと踏ん張りしようとした時、さきほどまでにこやかに歩いていたガイドが立ち止まり険しい顔で上空を見上げている。
そうして僕らを見回しこう言った。
「雨が降ると足元が滑って危険なのでこれ以上登ることはできない。今から山を下る。」
な、なんだと〜。
参加者全員何とか登りたいと主張するが、願いは受け入れられず。
なんてこったい。
あと、後1時間あれば頂上まで着くんだぞ。
明日再びチャレンジすることもできず、もちろんお金も戻ってこない。
こんな不条理なことがあるだろうか。
つらい、辛すぎる。
旅とは自然や社会情勢に翻弄されながらもその中でなんとか折り合いをつけてやっていくものなのかもしれないが、こんなことって…。
ガイドはいいやつで暗くなる僕たちにジョークなどを言って励ましてくれるのだが、それに素直に笑うことができず冷たくあしらってしまう僕。
なんて小さな男なんだ、僕ってやつは。
こんなことまで再認識させられる。
山を下りると雨はすっかりあがり青空に。
はたしてピナクルをこの目で見ることのできる日が来るのであろうか。
いつの日か。