いよいよ長かったパキスタン滞在を終え、中国へ向かいます。
手の怪我のトラブルもありましたが、たくさんの人々に出会え、また美しい大自然も満喫し、楽しい旅になりました。
またいつか訪れたい国であります。
まずはチャプルソンバレーからイミグレが置かれているスストへと乗り合いジープで行きます。
そこで中国、タシュクルガン行きのバスチケットを購入します。
9時のバスが人数が少ないためキャンセルだと言われ少し焦りましたが、どうにかその後ギルギットから来る11時発のバスに乗ることができました。
簡単な荷物検査、出国手続きを行った後、バスに乗り込みます。
バスは切り立った崖の間を縫うようにして走り、どんどんと高度を上げていきます。
パキスタンの出国手続きは済んだものの、実際の国境は標高4700mのフンジュラーブ峠にあります。
この峠の道は冬には雪で閉ざされ通行できなくなりますが、今は夏の太陽が明るく輝きそのような面影は全く見ることはできません。
そして、3時間ほど上り続けた頃でしょうか。
バスはだだっ広い緑の草が生い茂る場所にたどり着きました。
どうやらここがシャンドール峠のようです。
7年前はここを通りたくてもできなかったのです。
感無量です。
そんな僕の気持ちをよそにバスは停車することもせず走り続けます。
すると記念碑のようなものが建っている場所があり、そこを過ぎると突然、道が変わります。
今まで一車線の凸凹道だったものが、きれいなセンターラインのある2車線の道へとなるのです。
そう、中国に入ったのです。
この道の変わりよう、かなりあからさまです。
この道の違いが、中国とパキスタンの経済力の差なのか。
それとも外国に無様な様は見せることはできないと言う、中国のメンツによるものなのか。
そんな快適な道を下ること5分あまり。
バスは道路脇に一軒だけぽつんと建つ建物の横に停車します。
やってきました、恐怖の中国の荷物検査です。
ここの国境は昔から荷物検査が比較的厳しかったのですが、オリンピックを間近に控えた現在、さらにその厳しさが増しているのです。
ここを通った旅人からのさまざまな噂が耳に入ってきました。
カバンの中身を全て出され、ガイドブック、本等を1ページづつ目を通され、カメラのデータも一枚一枚チェックされ、パソコンを持っている人は電源を入れられ、荷物にキリのようなもので穴をあけられ中身を確認されるなど、とにかく異常とも思えるチェックぶりなようです。
2ヶ月ほど前にはダライラマかフリーチベットと書かれた写真を持っていた日本人旅行者がそれを見つかってしまったため、2、3日拘留されてしまったようです。
ちなみにそれは中国国内では実名で報道され、日本国内でもイニシャルでインターネットのニュース等で流れたようです。
たかが写真ですよ!
おそろしい。
なので僕も前夜はなにか余計な物は入っていないかと、念のためカバンの中をチェックしたのでした。
そういう訳で問題になるような物は持っていないつもりなのですが、ただひとつチベットのガイドブックを持っているので、それについて何か言われないか心配です。
バスに係員が乗り込んできて、荷物を持って降りるように言われます。
僕が先頭になり荷物を持って、建物の中に入っていきます。
台の上に荷物を置きます。
よ〜く調べておくれ、僕は叩いても埃ひとつでないきれいな身だから。
しかし、色の黒い角刈りの係員は何故か僕の荷物には触れずに、違う人の荷物から調べていきます。
そして、その人が終わるとまたその後ろに並ぶ人を調べ始めます。
おいおい、こんな所で僕は放置プレイですか。
嫌な予感がします。
最後に僕はじっくりとってやつじゃないか?
そして、やっぱり僕は最後になりました。
若くて体のでかい係員が僕の荷物を調べ始めます。
まずはウェストポーチとマネーベルトからです。
デジカメの写真を見ていきます。
ダラムサラでの写真は消したので問題のある写真はないはずです。
次に財布の中身を調べます。
そして、その中に入っていたペシャワールのババジイツアーに参加した時にもらったアフガニスタンの紙幣を見た瞬間、その係員の目がキラリとするどく光ります。
「これはなんだ?」
なに〜アフガニスタンの紙幣を持っていたらなにか問題があるのか?
もしかしてタリバンかなにかと関係があるんじゃないだろうなとか言い出すんじゃないだろうな。
僕は、いやそれはパキスタンでもらったものであって、けっしてアフガニスタンには行ってないということを懸命に説明します。
係員は僕をじーっと見つめると言いました。
「これを譲ってくれないか?」
へ?
「いや、外国の紙幣を集めているので、これが欲しいんだ。」
これは遠回しの賄賂の請求なのか。
しかし、話を続けていくとどうやらそうではないようです。
本当に外国のお金に興味があり集めているようなのです。
そう知ると、ちょっと違うかもしれませんが、外国に興味がある者同士ってことでなんとなく親近感が湧いてきて、それなら他の国のお金もあるよと色々出してあげました。
今回の旅では記念にお金をわざわざとっておくというようなことはしていなく、また今までも外国のお金に興味がある人にあげてきているので、それほど多くの国のお金を持っている訳ではありません。
それでもその係員は嬉しそうに手に取ったりして見ています。
あまりにも嬉しそうなので、たいした金額じゃないしあげるよと言うと、「それは駄目だ、中国のお金と交換だ」といって譲りません。
同じ国のお金が何種類かあると、一番少ない金額の紙幣を選ぼうとします。
なんとも律儀な人です。
僕も、要らない余った物で、こんなに喜んでくれるなんて嬉しい限りです。
そんなことをしている内にいつの間にか2、30分経ちました。
そして、お金を交換し終わると係員はもう行っていいよと言ってくれました。
荷物はほとんど調べていません。
これならなんでも持ち込めたんじゃねぇかと思いつつ、ほっとしてバスに戻ったのでした。
やれやれ。
バスはその後、2、3時間ほど走るとタシュクルガンに到着しました。
この町に中国側のイミグレがあります。
ここでもう一度荷物チェックがありましたが、ちらっと見て、x線の機械に通すだけで中身にはほとんど触りませんでした。
入国審査も簡単です。
しばらくパスポートの写真と僕の顔を見比べながら、同一人物か?というような不審な目で見ていましたが、ぽんっと入国スタンプを押してくれました。
また、ここの係員たちはみな若い人が多かったのですが、みんなフレンドリーなのにはちょっと驚きました。
だいたいどこの国でもイミグレの係員は無愛想なことが多いのですが、ここでは笑顔でいろいろと話しかけてきたのです。
中国というと役人がなんか嫌な感じという先入観を持っていたのですが、案外いいやつらじゃないかと思い直しました。
やっぱり実際に会ってみないと分からないもんですね。
そして、ここでは荷物検査も入国審査もスムーズだったんですが、大きな装置の中に入れられての身体検査がありました。
その中で体ごとスキャンするようなのです。
多分、これで体の中に隠している物を見つけようというのでしょう。
中に入って扉を閉められ待っていると、しばらくジーっというような音が聞こえてきます。
30秒ぐらいで外に出されます。
すると若い係員の男の子は何かパンツの中に隠していないかというように僕のズボンを脱がせ見てきます。
もちろん、その中には、僕の大切なもの以外、何もありません。
男の子はおかしいなぁ確かに何か写っていたんだけどなぁみたいな感じで首を捻り、もういいよと言ってきます。
解放してくれるのはありがたいのですが、僕も何が写っていたのか気になってきます。
しかし、なんかあるのかと訊いても、もういいから出て行ってとしか答えてくれません。
いったいなんだったんだ?
僕の体の中に何かあるのか?
もしかして僕が知らない内に宇宙人に何かを埋め込まれていたりして‥‥。
気になります‥‥。
イミグレを出て、バスはレストランの前に止まります。
このバスはこのままタシュクルガンを出てカシュガルまで行くのでここでいったん夕食を取るようです。
僕はこの町で一泊する予定なので別にここで夕食をとる必要はないのですが、ついでだし食べることにします。
待ちに待った中華料理とのご対面です。
パキスタンにいる間、どれだけ中華料理を食べることを楽しみにしていたことか。
いや〜たまりませんね。
って思ったら、この店、フンザ出身のパキスタン人が経営するパキスタン料理の店でした。
美味しかったんですけど‥‥。
中華料理はもうちょっとおあずけであります。