ブータン。
そこはインド北東部と国境を接するヒマラヤ山脈南東部の小さな王国。
20世紀後半まで鎖国に近い政策をとっていたこともあり、自給自足に基盤を置いた伝統的な生活文化が残っているチベット仏教国であります。
そんなことを聞くだけでもとても興味がそそられる国なのですが、そこを旅する人はあまりいません。
何故ならすごくお金が必要とされるのです。
物価は高くないのですが、旅行するには必ず旅行会社を通して申し込まなくてはならなく、その費用が一日200ドルもかかるといいます。
ですから近くに来たからちょっと行ってみようかと気軽に行けるものではなく、バックパッカーにとってはとても敷居の高い国となってしまっているのです。
しかし、そんなブータンに簡単に入れてしまう方法があるのです。
今いるインド側ジャイガオン、ブータン側フンツァーリンという町の国境では、インド人、ブータン人は自由に国境を行き来することができるのです。
昔はブータンはインドの一部だったこともあり、現在もその影響力は強いみたいです。
そういったことも関係しているのか、貨幣もインドルピーと等価であり、ジャイガオンの町でも普通にブータンの紙幣が流通しています。
ジャイガオンの町で買い物をしてお釣りをもらったときブータンの紙幣が紛れ込んでいたので、最初騙されているのかと思って疑ってしまいました。
そして、もちろんここの国境は外国人の通行は認められていないのですが、ブータン人に似ている日本人は気づかれず入れてしまうと言うのです。
そういった訳で国境の町だけの観光となりますが、ブータンの雰囲気を味わえるチャンスがあると聞きここまでやってきた次第であります。
朝8時過ぎ、宿を出てすぐ近くにある国境に向かいます。
たまに外国人であるということがばれて追い返されてしまうことがあるようなので、ブータン人らしく?こざっぱりした格好をします。
長くのびきった髪も目立たぬよう小さく頭の後ろでまとめます。
荷物を持っていると呼び止められる確立が高くなるというので、荷物は全て宿に置いていきます。
国境は町のメインロードのつきあたった場所にあり、大きなお寺の門のようなものが立っています。
その門の下には歩行者用と自動車用の道があります。
たくさんの人、車が行き交っています。
また警察官のユニフォームのような服を着た女の係員が数人立っています。
どうやら彼女らが国境を通る人をチェックしているようです。
しかし、なにか世間話のようなものをしていて、それほど厳しく通行人をチェックしているようには見えません。
よし、これなら大丈夫かもしれません。
気合を入れ直し、国境へ向けて歩き始めます。
いよいよ密入国の開始です。
と言っても、ただ歩くだけですが。
しかし、数歩歩いて立ち止まります。
ちょっと待て、メガネも外したほうがいいかな。
こっちはあまりメガネをかけている人を見ないもんな。
メガネを外しポケットに入れ、再度歩きだします。
チャララ〜チャララ〜と頭の中で「ミッションイッポッシブル」のテーマ曲が流れてくる‥‥余裕などありません。
ドキドキドキドキ。
ばれませんように、ばれませんように。
国境を越える人ごみの中に紛れ込みます。
さりげなく、さりげなく、と頭の中で呟きます。
しかし、顔がひきつり確実に自然でない自分がいるのが分かります。
いよいよ係員が数メートル先に見えてきました。
けっして目を合わさないように真っ直ぐ前を見つめ歩き続けます。
そして、通り過ぎようとした瞬間、係員が突然僕の前に立ちふさがり行く手を遮る‥‥。
てなことはなく、そのまま歩き続けたのでした。
ブータンへ。
チャララ〜チャララ〜!!
今度こそ頭の中でテーマ曲が鳴り響きます。
やった〜ブータンにやってきたぞ。
入国成功だ!!
ほっとしましたが、本日のミッションがこれで全て終了した訳ではありません。
第二のミッション、「ブータンから日本に手紙を出そう〜」です。
町をぶらぶら見ながら郵便局を探します。
ブータンの町に入ると、建物は中国っぽいというか東洋的な雰囲気に変わり、そして、そこには日本人に似たモンゴル系の人々がいます。
民族衣装を着た人もたくさんいます。
男の人は日本のゆかたのような服を着ています。
おおっぴらにお酒を飲めないインド人が飲みにくるのか、ビールやらウイスキーを売っている店や、飲み屋がたくさん並んでいます。
街中にはチベット仏教の寺院もあり、人々がマニ車を回しお祈りをしています。
国境の町のためインド人もたくさんいますが、確かにブータンであります。
しばらくして郵便局を見つけました。
またちょっとドキドキして、中に入ります。
もしかして何故外国人がこんなところにいるのだと咎められるかもしれないと思ったからです。
カウンターにいた若い兄ちゃんにおずおずと「切手が欲しいのですが‥」と尋ねます。
するとその兄ちゃんは僕の心配をよそに笑顔で、コレクションのため?と訊いて来ます。
まぁそのような感じでと曖昧に答えると、それならこっちへ来てと誘われ、横にある別の部屋へと連れていかれました。
その部屋の中には、まさしく日に焼けた日本のおっちゃん!というような人が座っていました。
どうやら郵便局長のようです。
切手が欲しいと言うと、流暢な英語と笑顔でいろいろ話しかけてきます。
日本から来たと言うと、日本人とブータン人は顔が似ているもんなと喜んでくれます。
おっちゃんはいろいろな記念切手を見せてくれます。
何枚かその中から選び、ハガキも持っていなかったので売っているかと訊くと、棚の中から何枚か出してくれます。
よし、これでハガキをだせる、と思ったら、ボールペンを持ってないことに気づきました。
おっちゃんに、ボールペン貸して欲しいと頼むと、快く貸してくれました。
ブータン人、親切だ〜。
そして、部屋にある机でハガキを書かせてもらい、切手を貼り、ポストに投函したのでした。
これにて本日のミッション終了!!
チャララ〜チャララ〜チャララ〜。