マシュハドはイランで一番重要なイスラム教の聖地です。
ここには8代目エマーム・レザーの聖墓があります。
イランだけではなく近隣諸国からも多くの巡礼者がこの地を目指しやってきます。
日本人の旅行者と話をしてイランでどこが良かったという話になるとこの町を挙げる人が多いです。
しかし、欧米人の旅行者の口からその名が出ることはほとんどありません。
これは不思議に思っていたのですが、実際に来てみるとその理由は分かりました。
ここの見所は、町の中心にある通称ハラムと呼ばれるハラメ・モタッハル広場。
ここにエマーム・レザーの聖墓をはじめ、モスクや神学校などの宗教施設が集まっています。
ハラムに入るためには聖域(バスト)と呼ばれる通路を通らなければなりません。
そこでは厳重なボディーチェックがあります。
昔は旅行者でもエマーム・レザーの聖墓以外は自由に見学できたらしいのですが、現在は必ずガイドによってビデオなどを見せられ説明を受けなければならなく、運が悪ければその後もずっと付きまとわれてしまうのです。
ガイドに無料で案内してもらえるなんていいじゃないかと思うかもしれませんが、それではエマーム・レザーの聖墓に行けなくなってしまうのです。
他の旅行者の話だとハラムの中に入ってしまえば、後はなにも咎められることもなしにエマーム・レザーの聖墓まで行けてしまうということなのです。
ですからできれば1人で自由に見たいのです。
夜6時に過ぎにハラムへ向います。
ここは24時間開いているのです。
そして、ここを訪れるなら建物がライトアップされる夜が断然良いらしい。
ちょっと緊張してハラムの南側にある入口をくぐると、男の係員により簡単なボディーチェックを受けます。
しかし、係員は僕がカメラを持っているのを見つけるとこれは持ち込めないと言います。
仕方ないので外にある荷物預り所にカメラを置いてきます。
そして、再度チェックを受けると、すんなり入場を許可されました。
やった、入れた、と思い歩き出すと、ちょっと待てとさっきの係員から呼び止めてきます。
そして、あなたはモスリムか?と訊いてきます。
「YES」と言おうかとも思いましたが、嘘を言ったのがばれたらややこしいことになるのではないかと思い「NO」と答えます。
すると、ツーリストはガイド無しでは入場できないと言います。
さらにもうガイドはいないからまた明日朝出直せとも言ってきます。
そして、問答無用に追い出されてしまったのです。
でもこれで入るチャンスが無くなった訳ではないのです。
何故ならば入口はそこだけでなく他に何箇所もあるから。
そして10分ほど歩き、東側の入口に行きます。
今度はツーリストであることがばれにくいように、なにも話さずさりげなくボディーチェックを受けます。
今回はあっさりと入場を許可されます。
今度は呼び止められることもありません。
やった〜入れた〜。
ハラムの建物は予想以上に綺麗でした。
ライトアップされ輝く様は、聖地と呼ぶに相応しい神々しさです。
建物の周りをぐるっと回った後、靴を脱ぎビニール袋に入れモスクに入ります。
中の広いスペースには大勢の人がいます。
熱心にお祈りをしている人もたくさんいます。
中には涙ぐんでいる人もいます。
さらに奥へと進むと人の数も増え混雑してきます。
そして、鏡のモザイクで壁中が覆われた光り輝く部屋と到達します。
ここがエマーム・レザーの聖墓がある部屋です。
部屋の中央の置かれた銀の柵で囲まれた聖墓の周りはさらに大勢の人で埋め尽くされています。
静かに祈るというのではなく、少しでもその柵に手を触れようとする人々の熱気で溢れかえっています。
今までいろんな宗教施設を見てきましたが、それらはほとんどが神秘的で静かな印象を与えるものでした。
しかし、ここはまさしく熱気と興奮が渦巻いています。
初めて宗教が持つその熱い力に触れたような気がします。
こんなにも人を高揚させる宗教とはいったいなんなんであろうかと改めて考えさせられます。
日本の旅行者たちがマシュハドはすごいって言っていた意味が分かりました。
そして、欧米人があまりマシュハドの話をしないのも。
東洋人であれば黙っていればここまで入ってこれますが、白人である彼らはその容姿から簡単に入場を拒まれてしまうでしょう。
確かにこの聖墓を見れなければ、旅行者にとっての魅力も半減してしまうでしょう。
しかし、聖墓を見ることができて良かったと思う反面、やはりモスリムでない僕が興味本位で来てはいけなかったのかなという思いもあります。