トビリシに戻り、今度は一泊二日でカズベキに行きます。
カズベキは、グルジア北部にありロシア国境にも近い、高い山々に囲まれた小さな町。
標高5000mを超えるカズベキ山の姿を見ることもできます。
寒さのためなかなかベッドから抜け出せなかった僕は、トビリシを発つ時間も12時近くなってしまい、真っ白に雪化粧された山々の間を走りカズベキの町に着いた時には3時になっていました。
すぐに宿を探したのですが、オフシーズンのためか、はたまた年末のためなのか、ほとんどのホテルが閉まっており、やっとのことで泊まれる場所を見つけた時には3時半を回っていました。
荷物を置くと、宿のおばちゃんのお茶でも飲んでゆっくりして下さいとの声を振り切り、さっそく町歩きを始めます。
年越しをトビリシで迎えたく明日の朝には戻らなくてはならないので、ここで過ごす時間はあまりないのです。
ですから、軽く町の雰囲気でも味わえたらいいな程度で考えていました。
しかし、町の背後にあるクヴェミ・ムタ山の頂上に建つツミンダ・サミダ教会が気になります。
そこからの眺めが素晴らしいということは、他の旅行者から聞いていました。
確かに良さそうです。
行ってみたい。
そうは思いますが、問題があります。
朝トビリシを出発するのが遅くなった時点で、時間が足りないことは決定しているのです。
ガイドブックによると教会までは歩いて2時間ほどかかるということです。
帰りは下りで1時間で帰ってこれるとしても合計3時間ほどかかってしまいます。
時刻は、ぶらぶらと町を歩いているうちに、いつの間にか4時半になっています。
だから今から教会に行くと町に戻ってくるのが7時半になってしまう。
6時には日が沈み、暗い中、山の中を歩くことになってしまうので、それはちょっとまずい。
どうしようか。
う〜ん、やっぱり駄目だ、あきらめた方がいい。
山をなめてはいけない。
道はそれほどきつくない。
山道の入口ではふくらはぎ辺りまで足が雪に埋もれてしまって歩きにくかったが、そこを過ぎると雪は踏み固められており滑ることもなく快適に歩ける。
できるだけ早歩きで上を目指します。
はい、結局登り始めてしまいましたよ。
意思の弱い人間であります。
やはり、ちらちらと視界に入ってくる山の上に建つ教会の魅力に打ち勝つことができなかったのです。
行ける所まで行って、日没に間にあわなそうだったら途中で引き返してこよう。
そう決めたのです。
いかにも山をなめている人間が考えそうなことですけれど‥‥。
しかし、この教会までのハイキングには、頼もしい相棒がいます。
その名も、名無しの権兵衛ちゃんです。
町の広場から何故か僕についてきた犬です。
なんか気の効いた名前でも思いつけば良かったのですが、なにも頭に浮かばなかったので、とりあえず名無しの権兵衛ちゃんということで。
しかし、メスです。
頭を撫でてやると、自分から横になり腹を見せてくる、可愛げのあるやつです。
別に僕の先頭をきって道案内してくれる訳でなく、あっち行ったりこっち行ったりふらふらしながら僕の後をついてくるだけなのですが、一緒にいるだけで心強いものがあります。
そんな権兵衛ちゃんですが途中その姿が見えなくなってしまいました。
ひとり(一匹)で先に町に戻ってしまったのかと少し寂しい気持ちになりました。
しかし、しばらく歩き続けると、近道を通り先回りして僕を待っている権兵衛ちゃんがいるじゃありませんか。
こいつ〜心配したぞ〜なんて声をかけたくなります。
そんな権兵衛ちゃんとふたり(一人と一匹)、急ぎ足で先へ先へと進みます。
時間は5時を回りましたが、まだ着きそうな気配はありません。
道は山の後ろをぐるっと回って山頂まで通じているので、山影に隠れ教会の姿は見えなくなっています。
もう戻った方がいいのかな。
いや、もう少しだけ行ってみよう。
さらにペースを上げます。
そして、5時15分、急な坂を上りきると、山の頂上にたどり着きました。
そこから教会の姿が見えます。
おお〜、とうとう着いたぞ。
そこから教会までの軽い上り坂を駆け足で進みます。
そして、とうとう教会に到着。
頑張った甲斐もあり、1時間で登ってこれました。
そこからの眺めは僕の期待以上の素晴らしいものでした。
眼下にカズベキの町が小さく見え、目の前には迫力なる大きな山々が連なっています。
いや〜無理して来て本当に良かった。
権兵衛、お前もよくやったな。
そうして権兵衛に目をやると、地面に横たわり僕に摩ってくれとお腹を見せるのでした。
可愛いやっちゃの〜。