行くべきか、行かざるべきか。
悩みます。
行きたい、でも、止めておくべきか。
いったい何を悩んでいるのかと言いますと、ここトラブゾンの南約54KMにあるスュメラ僧院に行くかどうかということなんです。
スュメラ僧院は、高さ300mの切り立った垂直の岩盤の途中に造られたビザンツ寺院なのです。
ガイドブックの載っている写真を見た時に、これは見た〜いとビビッときてしまったのです。
それ程見たけりゃ悩まず見に行けばいいものなんですが、ひとつ問題があるのです。
今日の夕方5時にグルジア行きのバスに乗らなければならないのです。
そして、スュメラ僧院に行くためにはツアーに参加しなければならなく、それがトラブゾンを11時に出発、戻りは16時だというのです。
バスターミナルは町の中心部から少し離れた場所にあるので、更に市バスに乗り15分程かかってしまうのです。
計算上は問題ないのですが、1時間ぐらい帰りが遅れるってことも十分考えられます。
それで、どうするか悩んでいる訳です。
行くべきか、行かざるべきか。
少ない脳みその詰まった頭で精一杯考えた結果、やっぱり行くことにしました。
もし最悪、バスに乗れなかったとしても、バス代25ドルが無駄になるだけですから。
やっぱり後悔したくないですから。
ツアーバスを運行するバス会社のオフィスへ11時に行きます。
しかし、なかなか出発しません。
時間は刻々と過ぎていきます。
11時半を回りました。
まだ出発する気配はありません。
さらに時間は過ぎ、11時45分も回りました。
これではもう駄目だ、もうキャンセルしてしまおうか‥‥と思った時、ようやく出発だと声をかけられました。
しかし、これで本当に4時に帰ってくることができるか?
心配はさらに高まります。
バスは、スュメラ僧院のふもとに1時前に到着します。
ここからバスを降りて、今度は雪の積もった細い山道を登っていかなくてはなりません。
30分以上はかかるようです。
同じバスに乗っている人の中には、年老いたトルコ人のおばあちゃんの姿も見かけます。
娘とその婿と3人で一緒に旅しているようなのですが、のろのろと歩いて帰りのバスの出発時刻を遅らせるようなことをしないか少々心配になります。
そんな僕の心配をよそに、みんないいペースで歩き続け、1時45分にはスュメラ僧院にたどり着きました。
僧院自体は、期待しすぎていたのかそれ程感動はなかったのですが、壁に残されたフレスコ画も綺麗でそれなりに楽しめました。
30分程見学した後、今度は山を下ります。
みんなちゃっちゃと下りて、さっさと町に戻りましょ〜。
僕は、さっさと歩き山道を下り始めたのですが‥‥。
滑ります。
雪の積もった道は、容赦なく僕の足を滑らします。
上りはそれ程気にならなかったのですが、下りはかなり歩きずらい。
恐る恐る足を進めますが、それでも何度もこけます。
しばらくすると、後ろからトルコ人のおばあちゃんとその娘夫婦が来て、よろよろとしている僕の横を何事もないようにすたすたと歩き、あっという間に抜き去っていきます。
なんでだ〜、靴の差か〜!?
僕がみんなより遅れてどうするんだよ。
なんとか早く歩かなければと思うのですが、焦れば焦るほど足はつるつると滑りなかなか前に進むことができません。
くっ〜そ〜。
バスが止まっている地点はまだ遥か遠く下にあります。
その時、ふと前を見ると、さっきのおばあちゃん達がすぐそこにいて、僕を見ているじゃありませんか。
何かなと思っていると、近づいてきて、息子が腕を持って支えてあげるから一緒に下ろうと言ってくれるじゃありませんか。
ありがたい。
そして、僕はそのように体を支えてもらいながら、無事山を下ることができたのでした。
おばあちゃん、のろのろと歩いて僕に迷惑をかけるんじゃないぞと思ってしまった僕を、どうぞ許して下さい。
あ〜、僕はなんて小さな男なんだ。
おばあちゃん、そして、その娘夫婦たちよ、ありがとう。
バスは、トラブゾンの町に3時55分に着いた。
そのまま走ってホテルに預けてあった荷物を取りに戻ってから、バスターミナル行きの市バスを探す。
タイミングの良いことに、市バスを見つけ乗り込むとすぐに出発となった。
そして、バスターミナルに着いた時は、4時15分。
出発予定時刻の5時にはまだまだ余裕でありました。
あんだけ焦った僕はいったいなんだったんでしょうか。
そして、グルジア行きのバスが出発したのは‥‥。
夜8時。
おいおい。